コメント
あの世とこの世、過去と現在、
虚構と現実のあわいを浮遊するかのような、
静謐にして大胆な語り口。
次元をさらりと超越する仕掛けに、
新鮮な驚きがある。
それでいてこれは、
この上なく率直だからこそ胸を打つ、
作者の肉声でもあるのだ。
宇多丸
RHYMESTER
あのひとはどこにいるんだろう。
使っていたノート、部屋、あのひとの佇まいや眼差し、
線香のゆらぎと仏間の陰翳、思い出や夢(想像力)の中で目が合う。
あのひとが書いた字はあのひとを思い出させる。
そこに、あそこに、イメージになって、音に、言葉に溶けて。
小田香
映画作家
『はだかのゆめ』はなぜ素晴らしいか。
それは、生まれたばかりのはだかの映画がそこで息づいているからだ。
いや、死んだまま生まれ直してきた全ての映画の夢と記憶が
世界の隅々に息づいているからだと言うべきか。
はじめて『革命前夜』を見た時のように、
はじめて『ツィゴイネルワイゼン』を見た時のように、
はじめて『汚れた血』を見た時のように、
この作品を見る者は真の世界的映画作家の誕生を
新鮮な驚きと当惑と共に目撃するだろう。
大寺眞輔
映画批評
突如ぷわーんと走ってくる列車に戦慄する。
唯野未歩子がサラッと口にする言葉がものすごい。
ホラーではないが、これは間違いなく死の映画だ。
黒沢清
映画監督
冒頭の線路、
ほの明るく照らし出されるあの獣道のような線路の先にトンネルがあるのだろうか。
あの線路にかかる荒げた吐息、
生きようとも死にそうにもしているあの息の音は、
登場人物のだれのものでもなく、
したがってだれのものでもあるのだろう。
五所純子
文筆家
あなたの死を受け入れられない私を、
その身体はちゃんと受け入れている。
異なる"私"の正直な身体たちを、
一つの映画にして見せてくれました。
みな同じ家に居ながらも、一人でさみしさと闘っていました。
たとえその身体が見えなくなっても、
家に残る痕跡は闘った人を描き続けるのだと、
この映画は教えてくれます。
突然に、祖父の手で燻されるカツオは、
あまりにもその本人を描き始めるので、
この家の澄んだ記憶を見たようで、胸がいっぱいになりました。
小森はるか
映像作家
羊水の流るる音は近くて、遠い記憶

赤子の蝉の声はうるさくて、聞こえないほど白い。
死者の声は生の中にあり、
生者の声は死の向こう側からやってくる。
影法師は半透明の膜に落ち、
身体の感覚は内部の裂け目に起こる。
映画体験は身体の喪失だったことに気付かされた。
ヴィヴィアン佐藤
美術家、ドラァグクイーン
わたしたちはみないつか彼岸への川を渡る。
未来の幽霊として、過去と現在を記憶に刻む。
刻々とうつろい、もう二度と戻って来ない時間。
いつかこの人たちに別れを告げないといけない日が来ると承知しながら、
日々をやり過ごす。
いつだって肝心な時には間に合わない。
取り返しがつかなくなって初めて失ったものの大きさに呆然とする…。
もうここにはいなくなったその人の仕草、
微笑みや笑い声がふと蘇る。
その瞬間あの人たちは彼方に消え去ったのではなく、
ともにこうして今も一緒にいるのだと実感する。
この映画のとりかえのきかない個別具体な描写に
親密な死者たちのことを想う。
篠崎誠
映画監督・立教大学現代心理学部映像身体学科教授
高揚は見事に断ち切られ、
懐中電灯の灯りは火振り漁の炎へと変換される。
川の水は蒸発し、雲を作っては雨を降らす
モチーフを介してイメージが連関し、人が、車が、電車が、音楽が走りだしては止まる。
世界の内に亀裂をうがち、別々の世界をなめらかに繋ぐために編集がある。
圧倒的な傑作だ。
だが、これを生み出したのは慎みなのだ。
須藤健太郎
映画批評家
1カット1カットが連なって、
そこに、音が重なり、音楽が響く。
そんな連続で、青木柚の見つめる視線の先が、
さらりと時空を超えて、広がっていく。心が揺さぶられる。
次のカットが、楽しみになる。
甫木元監督が作り出す無次元の、
映画の冒険だった。
瀬田なつき
映画監督
きっと自分が死ぬときに、
この映画と同じ陽光と音に包まれるのだな、
と思えてくる1時間の歓喜とエクスタシーに満ちたファンタジー!!
中原昌也
ミュージシャン/作家
冒頭の夜の線路がすごい。
そこででいきなり高まった期待は、
しばらくぼんやりとしていたり、
ある出口が予想されたりしたが、
途中から、予感? 不安? 怯え?
………どんどん濃密になってくる経験したことのない強い感情に襲われ、
それと人が居られる静かな土地とが拮抗する。
保坂和志
小説家
優しくやるせない、ファンタジックな映画だった。
Bialystocksの音楽が喪失の哀しみに慰めと
仄かなロマンティシズムを添えていた。
堀込高樹
KIRINJI、ミュージシャン
映画は時間を結晶させる。
たゆたう光の中で、老人のこごめた背が、夜を焼く火振りの川が、
何よりも尊いものとなる。
「はだかのゆめ」は時間を止め、
永遠の世界を現出させるのだ。
柳下毅一郎
映画評論家
ノロマノロマと人に蔑まれもする誠実な遅さこそが、
私が映画を見る理由です。
でもいつしか、
「生きてるものが生きてるものに渡さんでどうする」
という焦りも背負っていたのです。
だから、『はだかのゆめ』という夢を見たのか、
その夢に見つめられたのかは、よくわからなくなるのです。
結城秀勇
映画批評
この映画は、特になにかが起こるわけでなく、
緑豊かな田舎の中、死者と生者がうろうろしている世界を映す。
ただ、ここで捉えられている彼(女)らの
お互いを探す姿や日々のいとなみや自然の風景、
その圧倒的に純度の高い抒情性を目の当たりにしたとき、
思わず流れる涙は決して感動ではなく、
それが、同時にそこで描かれる死んでる者と死にゆく者に対する
現実と共にしか存在し得ない残酷さへの涙なのだ。

そんな中、一番高齢であるはずのおじいちゃんが驚くべき生命力で畑を耕し魚を捌き、
不意に孫に向かって話すとき、
その声が監督の歌声へと繋がる。
その奇跡がここでは起こっている。
渥美喜子
ライター
線香の煙のゆらめきがそのまわりを行き交う気配を教えてくれる。
夜道を照らすヘッドライトや懐中電灯の光が
その外側に広がる闇の深さを教えてくれる。
全方位から語りかけてくる四万十の環境音にどっぷりと浸かりながら、
地と図が反転した世界で見えないものと会話をするようなすごい映画。
VIDEOTAPEMUSIC
映像ディレクター/ミュージシャン